都会の喧騒の中で、ふと「自分は何に支えられて生きているのだろう」と立ち止まることはありませんか。効率やスピードが重視される日常。でも、ここ北海道の小さな漁師町・鹿部町(しかべちょう)には、それとは全く違う、ゆったりと、しかし力強い時間が流れていました。
2026年2月17日、冷たくも澄んだ冬の空気の中、ある特別なツアーが開催されました。それは、熊本県水俣市で生まれた「地元学」という考え方をヒントに、鹿部町の日常の中にある「宝物」を再発見する旅。
今回は、五感を震わせ、心を整えるきっかけとなった「地元学モニターツアー」の様子をお届けします。
■「あるものを、磨く」——地元学が教えてくれること
今回のツアーの根底にあるのは、「ないものを嘆くのではなく、今ここにあるものを見つめ、それをどう育てていくか」という「地元学」の精神です。
都市部での生活は、利便性を「買う」ことで成り立っています。しかし、鹿部町の人々は、目の前の海から、厳しい自然から、知恵を絞って「豊かさ」を創り出しています。このプログラムは、ただの観光ではありません。地域に深く根ざして生きる人々の「想い」に触れ、私たち自身の生き方を見つめ直すための時間です。
■五感で触れる、鹿部町の「生きた」物語
① 潮風と活気、冬の漁港で見つけた「生命の鼓動」
朝の鹿部町漁港。キンと冷えた空気の中、船が戻る音とカモメの鳴き声が響きます。ガイドの案内で港を歩くと、磯の香りが全身を包み込みます。そこにあるのは、観光用に整えられた景色ではなく、この町が長年にわたって繋いできた「生業(なりわい)」の現場。市場で魚を見学させてもらいながら、地元の人の声に耳を傾ける。まさに今この場でしか味わえない体験を提供することができました。

② 昆布の香りに包まれて。漁師の妻・ユキコさんの手仕事
続いて訪れたのは、昆布漁を営む漁師さんの加工場。
私たちが訪れた時、ちょうどユキコさんが町内にある道の駅に卸す昆布を加工していました。昆布が食卓に届くまでの果てしない手間暇。加工しパウダー状にした昆布を試食させてもらうと、口の中に広がる濃厚な旨みをダイレクトに感じることができました。それは、大量生産品では決して味わえない、この土地の「魂の味」でした。


③ この時期にしか取れない恵みをいただく「料理体験」。地元のお母さんとの温かな時間
お昼は、地元のお母さんから教わる料理教室です。荒波を受けて、立派に育った大きなホタテを自分で捌く体験では、殻を開けた瞬間に溢れる海水と、ぷりっとした身の立派さに驚きました。
この日のメインは、冬の北海道の風物詩「ごっこ汁」。ホテイウオ(ごっこ)のゼラチン質の食感と、お母さんが作る味噌の優しい香り。
「美味しいね」と笑い合う時間は、まるで田舎の実家に帰ってきたような温かさに満ちていました。


④ 「地元学」の学びと、大寿司(おおずし)での深まる夜
午後は、水俣市での実践事例を基にした「地元学セミナー」を実施。
水俣病という公害から水俣市を再生させていく過程で吉本哲郎氏が辿り着いた「地元学」という考え方。
ないものねだりではなく、地域にあるものを探し、それを構成する自然や文化風土、人たちを丁寧に取材し1つ1つ紡ぎあげていった営みを「地元学」の実践者である天野浩氏(天の製茶園 代表)から学びました。
天野氏の講演の後は、もともとその土地に根付く「土の人」と外からやってきた「風の人」が交わることで化学反応が生まれていくということを主軸に、トークセッションを行いました。
風の人として水俣市で「水俣食べる通信」を発行する諸橋氏、鹿部温泉観光協会でツアーや観光コンテンツの造成を行う金澤氏、土の人でありながら風の人の要素も持ち合わせる知内温泉代表の佐藤氏、一般社団法人DSH代表の赤井氏の4名に参加いただき、活発なセッションとなりました。

ツアーの締めくくりは地元の名店「大寿司」での懇親会です。大将が握る至高の一貫を囲みながら、参加者と地域の人々が語り合います。地方で生きることの誇り、都市と地方、地方と地方同士が手を取り合う未来——。熱く語り合う夜は深く、温かく更けていきました。


■ツアースケジュール(参考)
| 時間 | 内容 |
| 9:00 | 鹿部町公民館集合、オリエンテーション(ツアーの趣旨説明と自己紹介) 天野氏のお茶をいただく。 |
| 10:00 | 鹿部町漁港見学 |
| 10:30 | 昆布漁師さんの加工場見学 |
| 11:15 | 道の駅見学 |
| 12:00 | 地元のお母さんによる料理教室(ホタテ捌き体験・ごっこ汁づくり) |
| 15:00 | 地元学セミナー |
| 18:00 | 「大寿司」にて懇親会(美食と対話のひととき) |
■結びに:あなたの「足元」にも、きっと宝物がある
このツアーを通じて私たちが感じたのは、「地方で生きる」という選択肢の豊かさです。
都会にないものを探すのではなく、この町にあるものを愛し、育てる人々の眼差しは、何よりも輝いて見えました。
「ここには何もない」と言っていた地元の人たちが、「ここにはこんなに良いものがあったんだ」と気づき、誇りを持つ。その瞬間に立ち会えることが、この旅の本当の醍醐味かもしれません。
あなたも一度、鹿部町の風に吹かれに来ませんか。
そこには、あなたの人生を少しだけ優しく変えてくれる、大切な出会いが待っています。
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執筆:一般社団法人DSH 藤谷(ふじや)